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2008年2月

2008年2月28日 (木)

太陽の塔

 京大五回生の、あまり幸せでもなさそうな主人公が、同じくらい、幸せそうにはみえない友人知人と、クリスマス間近の京都で妄想を繰り広げる。
 現代物はだめだと上で書いたが、これは違う。小難しい文章に見えて、読みやすい。最近仕事で京都の街を車で走ることが増えたせいもあって、出てくる地名に親近感がある。
 主人公たちの生活ぶり、ものの考え方も、実によくわかる。かならずしも同類ってわけではないが、共感する部分が多いのは確か。
 主人公による手記の体裁を取っている文章は、理屈っぽくて自己満足的で言い訳がましく、そして(作者の狙い通り)笑わせる。主人公の文体がまた、私の文体に似ているような気がして共感をおぼえる。
 今の生活と、彼女がいた頃の生活と、妄想・夢がごっちゃまぜになっている。叡山電車で太陽の塔を見に行くところなど、ビッスンの『世界の果てまで何マイル』のようである。あれも表紙は影山徹だったと思うが、そのイラストのせいもあるかも。
 日本ファンタジー大賞受賞作。ファンタジーな主人公の視点が、ありきたりの日常をファンタジーに変貌させている。
 解説は本上まなみ。なぜ?と思ったが、これが巧い。自分の「太陽の塔」暦や「京都」暦という実体験でそそっておいて、主人公のストーカー行為を持ち出してギクっとさせ、これはセラピーなんだという驚きの(しかし納得の)解釈でまとめたうえ、「まなみ号(!)」でオチを付けるという見事な起承転結。
 巧い。しかも、読みやすい。わかりやすい。要所を心得ている。反省しよう。
 ついでに告白すると、主人公は恋人に招き猫を送ったが、私は両端が猫の手の形をしたマフラーを送ったことが。これも反省。

『太陽の塔』森見登美彦、2003。新潮文庫。

2008年2月26日 (火)

ラー

 古代エジプト文化に魅せられ、タイムマシンでピラミッド建設を見にクフ王の御代を訪れた主人公が見たものは、クフ王が建造したはずのピラミッドがいましも発掘されている現場だった。ピラミッドの真の建造者は?
 高野史緒は、以前買った『ムジカ・マキーナ』が読みかけてつまづいたままだが、こちらはあらすじと中身をちょっと読んでそそられた。
 おもしろかった。ピラミッド発掘の謎にぐいぐい引っ張られた。しかしむしろ現代への帰還の顛末のほうが興味深かった。
 それにしても、『 Twelve Y.O.』も『ムジカ・マキーナ』もとっつきにくいのに、『ラー』をこれほどじっくり読むことができたのは、それだけではなさそうだ。現代物と19世紀物がだめで古代エジプト物がいいというのは、近代・現代史が苦手な私の嗜好と無関係ではなかろう。     

『ラー』高野史緒、2004。ハヤカワSFシリーズJコレクション。

2008年2月23日 (土)

日本橋探訪

02.20
 日本橋へ。目的はとりあえず「Toast 8 TITANIUM」だが、古本屋や中古CD店に行かないではいられない。日本橋はパソコンだけではない。
 REMEDIOS『Love Letter Original Soundtrack』。岩井俊二の映画『Love Letter』のサウンドトラック。あ〜、聴いてたらまた観たくなった。
 佐久間正英『再生 REPLAY』。昔FMで環境音楽特集してたとき、取り上げられた一人。でも、期待はずれ。あの時の曲と全然違う。同じ中古CD店にもう一枚あったのだが、そっちを選ぶべきだったか?
 高野史緒『ラー』。ハヤカワSFシリーズJコレクションの一冊。以前買った『ムジカ・マキーナ』は読みかけてつまづいたままだが、こちらはとても感性になじむ。タイムトラベル物だし、期待大。
 なお、中古CD店Fun Houseで稲葉喜美子のアルバム『愛(やさ)しき人へ』を発見。よほど買おうかと思ったが、持ってない人にゆずります。探してみてください。

2008年2月22日 (金)

MacBook

 02.01
 気づいたらしばらくMacBookを触ってなかった。もったいない。パソではいつもたいしたことをしてないので、ついeMacで済ませてしまう。eMacに載ってるPanther(OS X 10.3)にしても、必要最低限の機能しか使ってないので、Expose'もまったく使ったことのないままだった。反省。MacBook、積極的に使おう。
 02.15
 ムック本「Macintoshブラックレポート2008」を購入。DVDのリッピングを試す。成功。次はコピー。これには有料ソフトが必要。買ってまでする?
 02.20
 「Toast 8 TITANIUM」購入。リッピングしたファイルをDVDに焼く。成功。片面2層のオリジナルDVDを一層のDVD-Rに焼いたので、72%ほどに圧縮されたが、画質はよい。というわけで、個人的に楽しむとはいえ大きな声で言うことでもないのでこの話題はこれまで。

2008年2月20日 (水)

Twelve Y.O.

「トゥエルブY.O.(イヤーズ・オールド)……。十二歳の時代(とき)は、わたしとともに終わるんだ」
 沖縄に駐在するアメリカ海兵隊が、テロリストの警告を受けて基地を放棄・撤退した。コンピュータウイルス「アポトーシスII」を操り米軍を翻弄した、トゥエルブを名乗るテロリストと、対人戦闘で絶大な能力を示す、彼の手足となって動く少女「ウルマ」。BB文書とは? GUSOHの門とは? トゥエルブと過去に因縁を持ち、事件に巻き込まれた自衛隊リクルート要員・平は……。
 映画『ローレライ』はおもしろかったが、原作『終戦のローレライ』は長過ぎる。数々の賞を受賞した『亡国のイージス』もボリューム満点だ。というわけで、著者の作品のなかでは短い部類の本書を読んでみた。
 防衛論やら安保論やら戦後論やら世界情勢論やらの長さに、ついつい地文を飛ばし読みしてしまう。そこが著者の真骨頂だとは思いつつ、早くストーリーを追いたくて。で、2回読んだ。(2回目も、じっくりとは読んでない)
 どこまでが事実で、どこからが空想か区別できない自分の知識のなさが残念。世界の警察をやめたがっているアメリカ、という想定が、「9.11」以降の現在、本書を古びさせてしまったかもしれないのが残念。
 でも、多彩で深い人物造形、あり得ると思わせる日米の裏事情、アポトー シスII、GUSOHの門の謎などに惹かれ、ストーリー展開 の巧妙さに読まされた。
 おもしろかった。(今度はちゃんと、じっくり読もう……)
 「ウルマ」は、香椎由宇(ローレライの)に演ってほしいと思った。
 余談だが、「おまえには、○○とともに生きる道もあったのだろうが……」って、『もののけ姫』みたいな台詞だな。人物の立ち位置といい。

『Twelve Y.O.』福井晴敏、1998、2001。講談社文庫。

2008年2月 9日 (土)

ベルカ、吠えないのか?

 犬が「ジョーズ」のポスターのように口を開けて吠えている表紙写真に謎めいたタイトル。《四頭のイヌから始まる、「戦争の世紀」》という帯の惹句。ボリス・エリツィンへの献辞。そしてもちろん本文の拾い読みでそそられた。『アラビアの夜の種族』の作者のネームバリューにも。

  いっさいが忘れられた。たとえば二十世紀において
 アメリカ合衆国の領土が他国に侵略されたことがある
 事実を、人々は忘れた。二十世紀に、それはただ一度
 だけ起きた。太平洋の北側、アリューシャン列島で、
 二つの島が日本軍に占領された。
            (2章「一九四三年」冒頭)

 こんな出だしで、そそられないではいられない。そして日本軍撤退のあとに残された四頭の軍用犬から、物語が始まるのだ。おもしろそうじゃないか。

 たしかに、おもしろかった。ただちょっと乗りきれなかった。いろいろなエピソードを読みながら、「猿の惑星」シリーズにおけるシーザーの登場を期待していたような気がするが、とうとうシーザーは現れなかった。

『ベルカ、吠えないのか?』古川日出男、2005、文芸春秋。


2008年2月 7日 (木)

ダンス・ウィズ・ミー

 ABCラジオ「全力投球 妹尾和夫です」の十時台の音楽コーナーで、Orleansの「Dance With Me」が流れた!
 数年前、同番組が始まったとき、途中のジングル(およびオープニングトークのバック)で流れる曲を聴いて、「あれ、Dance With Meのアレンジに似てるぞ」と思った。数ヶ月後、件の音楽コーナーで、リスナーからのリクエストと前置きして「Dance With Me」のタイトルが出たとき、「他にも同じこと思った人がいたんだ」と意を強くすると同時に、「全力投球のスタッフ、心が大きいな」と感心した。でも流れたのは、Orleansではあるものの、アレンジの全く違う曲だった。がっかりするとともに、スタッフにうまくかわされたなと、悪い気はしなかった。オープニング曲の作曲者は同番組に何度も出てくるゆえ、今後もこの件は封印だなとあきらめていた。その後時は流れスタッフも入れ替わり、そろそろ気にしなくなったのかもしれない。(ついでに言えば、あの曲は「NHKのど自慢」や「オールスター家族そろって歌合戦」の曲にも似ている部分がある)

2008年2月 4日 (月)

せっちゃんのごちそう

 ひところ「朝まで生テレビ」によく出ていた、在日朝鮮人で人材育成コンサルタントの辛淑玉(シンスゴ)が、極貧の少女時代、がむしゃらに働く薄給時代の苦労の数々と、そんな中でも楽しかったいろんなエピソードを語る。
 お米がなくて布団を売ったり、野菜泥棒をしたり、デパートの試食で空腹を満たしたり、よその家で捨てようとしている卵の白身をもらって帰ったりと、貧乏話てんこ盛り。その上、在日の重みがのしかかる。大学卒業間際の敗戦で日本国籍を失ってまともな仕事につけなくなった父親、家父長制を背景にした母への父の暴力、母の忍耐と父に対する陰口、日本人からの横暴と在日団体の横暴。
 26歳で社員二人で会社を設立してから、少しずつ家の借金を返していった時、一軒返すたびに明るくなっていく母の顔、最後の借金を返し終わった時の父の笑顔を強調する著者にとって、「ごちそう」はやはり、家族の笑顔、周囲の人々の笑い声なのだ。
 テレビに出るようになったおかげも大きいのだろうが、多彩な著名人との交流も興味深い。

『せっちゃんのごちそう』辛淑玉、2006、NHK出版。

2008年2月 3日 (日)

怪しい日本語研究室

 '84年から日本で英語講師をし、現在、日本語から英語への翻訳者である著者が長年の日本語経験で気づいた日本語の様相をおもしろおかしく語る。
 「するめ」を「あたりめ」、「アシ」を「ヨシ」と言い換える日本人にとって、「平和」が「戦争」の忌み言葉に過ぎないのではないかという皮肉。
 お役人が「整備」という言葉好きなことから、その文体を「整備文」と名付け、「徒然草」や「平家物語」を「整備文」化してみせ笑わせる。清水義範が解説を担当してるのは、その「パスティーシュ」の見事さゆえか?
 「大蔵省」は千年以上さかのぼれる世界一古い官庁名なのだとか。そう言われると、著者同様、その廃止が残念に思える。
 一番おもしろいのが、少年時代から言語オタクだった著者の語る、古代文字解読と日本語の関連について。ミケーネ文字( 古代ギリシアの線文字B )は1母音+1子音からなる1音節を、1文字で表しているそうで、その解読方法を著者は平仮名を使ってわかりやすく説明している。
 エジプトのヒエログリフが表意文字と表音文字の組み合わせであることは、漢字と振り仮名で説明する。
 まるっこい絵文字のようなマヤ文字がまた面白い。これにも表音文字と表意文字があり、表意文字の後には「送り仮名」が、前には「迎え仮名」が付く(ときもある)という。漢字に置き換えると、「魚」は、「さかな」「魚」「さ魚」「魚な」「さ魚な」と5通りの書き方ができるんだと。いや〜、たまらなくシビレル話だ。

『怪しい日本語研究室』イアン・アーシー、2001、新潮文庫。

2008年2月 1日 (金)

われら顔を選ぶとき

 恒星間に広がる人類の世界は《家》と呼ばれ、18の惑星にある居住地区は《翼》と呼ばれる。人類を保護するためにこのシステムを構築した《一族》が、次々と命を狙われる。命を落とした者の記憶が次の《結節点》となる者に受け継がれ、《一族》は謎の暗殺者に立ち向かう。
 ・・・という第二部が本書の主要部分で、“主人公”が全ての記憶を取り戻すのが第三部。
 そんなことを言うとネタバレみたいだが、それくらいは読メルからいいでしょう。
 で、第一部は、暗殺された20世紀のマフィア「天使のアンジー」が、冷凍睡眠のあと、遥かな未来に覚醒し、彼を目覚めさせた子孫の依頼で惑星アルヴォにいる敵を討ちに行くのだが、その間に人類世界は壊滅の危機に瀕し、アルヴォにある敵の施設でクローン技術などを学び、人類を保護することになる、という話。
 第一部の雰囲気が気に入らなくて、永らく積ん読になっていた。こんなことなら解説で作者が「もともと」と言ってるように、第一部をあとに持ってきたほうがよかったかも。

 評価は、今の所、いまいち。《家》だとか《翼》だとか、勝手に作った用語を説明なしに並べるので、話がなかなか飲み込めない。最後まで読んだらなんとなくわかってきたので、もう一度読んだらおもしろくおもえるかも?

 本書には、いろんなゼラズニイ的なものがちりばめられている。
 記憶の喪失と回復にまつわる話にはコーウィンを思い出すし、《翼》ごとに存在する《一族》のメンバーは、《影》の分身のようだ。敵は《混沌の宮廷》的だし。
 脳内のささやきは『砂のなかの扉』。意識の共有や継承は『燃えつきた橋』や『光の王』にも出てくる。
 一人にして多者というイメージは、登場人物も「あなた、ひとつの人格なの、それともお名前は多数(レギオン)……」と指摘するように、『わが名はレジオン』である。
 ところで196ページに「嘘の王(あくま)ッ」とあるが、英語ではもしや、LORD OF LIES? 蠅の王(LORD OF THE FLIES)は悪魔を意味するが、よく似てるな。

『われら顔を選ぶとき』ロジャー・ゼラズニイ、黒丸尚・訳、1985、ハヤカワ文庫SF。
 TODAY WE CHOSE FACES by Roger Zelazny,1973.

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