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2011年3月21日 (月)

『アイの物語』

 山本弘『アイの物語』(2006)読了。良!
 AIが人類より優位に立つようになって数世紀。AIに抗戦しながら生きる人類の、町から町へと旅しながら、物語を語り歩く男が、ある日アンドロイドに捕らえられた。
 AIの語る「歴史的事実」を拒否する男に、アイビスと名乗る女性型アンドロイドは「真実を語らないと誓う」と言って、人がつくった架空の物語を夜な夜な聞かせる。

 「宇宙をぼくの手の上に」ネット上で宇宙船セレストリアルの乗員となって疑似冒険に興じる、創作小説サークルの主催者であるななみのもとに、刑事がやってきた。「乗組員」のひとりが、現実社会で殺人を犯したというのだ。
 「ときめきの仮想空間」仮想空間の書店でアバターを使って立ち読みをしていた水海は、男の子のアバターにナンパされる。
 「ミラーガール」母を亡くして部屋にこもりがちな麻美に、父がプレゼントしてくれたのは、鏡台型のゲーム機。鏡の中にはシャリスという名のお姫様が住んでいた。
 「ブラックホール・ダイバー」銀河の果てのブラックホール観測施設〈イリアンソス〉のもとを、久しぶりに宇宙船が訪れる。〈イリアンソス〉の制御コンピューターは、外部端末であるアンドロイドで客を出迎える。
 「正義が正義である世界」学校へいく準備におわれる彩夏は、長年のメル友である冴子からメールを受け取る。冴子はこう打ち明けていた「実は私はあなたの世界の住人じゃないの。いま私の世界は滅亡の危機に直面している」。
 「詩音が来た日」神原絵梨花の勤める介護老人保険施設に、介護用アンドロイド詩音が試験配備され、絵梨花が指導することになる。
 「アイの物語」仮想空間でのロボットバトル用にプログラムされたTAI(真のAI)アイビスが、現実世界にボディを手に入れ、人類に「反逆」するまで。
 
 著者が1997年以来あちこちに単発で書いた短篇を集め、そこに書き下ろしを加えてひとつにまとめたロボット・AIテーマの作品集。
 アイビスが収集したという設定で男に語られる物語は、21世紀初頭のネットコミュニティから未来の宇宙空間まで、いろいろな時代背景のもと、社会のありかたや、AIの可能性について、深い考察が織り込まれている。
 現実をレイアー0、バーチャル空間をレイアー1、レイアー2などと呼ぶ考えかたが面白く、物語にも大きく関わってくる。
 どの短篇を書いたころに、それを一冊にまとめる構想を持ったのだろうか、個々の作品がじつに見事に融合している。
 逆に言えば、著者は常にそれを考え続けていると言えるだろう。ロボットや人工知能のことを。事実ではないけれど正しい物語のことを。 
 解説の豊崎由美氏が力強く語る「山本弘は本気だな、本気で、今在る世界を変えようとしているんだな、物語の力で」という言葉で、『詩羽のいる街で』ががぜん読みたくなった。

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