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2012年1月 3日 (火)

『菓子フェスの庭』『リリエンタールの末裔』『夏のロケット』

 上田早夕里『菓子フェスの庭』良。
 西富百貨店企画部の武藤は、西宮ガーデンズに持っている喫茶〈パレドゥース〉でのスイーツ企画の担当を命じられる。甘いものが大の苦手の武藤は、スイーツ好きな同僚の緒方麗子を頼みにしながら、参加してくれる洋菓子店の選定をはじめる。やがて訪れた神戸のフランス菓子店〈ロワゾ・ドール〉で出会ったお菓子は・・・。
 主人公は武藤。ときどき〈ロワゾ・ドール〉の森沢夏織の物語となるが、基本的には武藤がいかにしてスイーツと悪戦苦闘し、おいしいと思えるものに出会い、お菓子に込めたパティシエやシェフの気持ちを汲めるようになっていくかの物語である。そして彼の恋と失恋のようなものが描かれる。
 シリーズのヒロインのはずの森沢夏織については、すでにパティシエとして女性としてしっかりとした考えを持っている印象が強く、彼女の大きな選択も既定事項のようにさらりと描かれている。ちょっと物足りなくもあるが、そこは著者の書きたいところではないのだろう。

 上田早夕里『リリエンタールの末裔』良。
 「リリエンタールの末裔」異常な海面上昇とその後の破滅的混乱を、遺伝子改変で乗り切ってきた高地民族。背中に生えた鉤爪を駆使した人力グライダーで空へのあこがれを追求する主人公。
 「マグネフィオ」社員旅行での事故で脳に障害を負った和也と修介。和也は物の形の認識力を失う相貌失認という脳機能障害。修介は体がいっさい動かせない状態となっていた。修介の妻・菜月は和也に、脳波を磁性流体に反映させて修介の心を視覚化できないかと相談してくる。
 「ナイト・ブルーの記録」神経接続型の海洋無人探査機のオペレーターをした男の、知覚感覚拡張体験。
 「幻のクロノメーター」安全に海を渡るための航海用時計の開発に生涯を捧げる者たちの物語。
 長編『華竜の宮』での、日本沈没的なハードSF風味のプロローグと、その後のある種荒唐無稽ともいえるネタのギャップに、不満の声もあったようだが、「リリエンタールの末裔」にも似たようなものを感じた。「背中に鉤爪がなくても成立するのでは?」まあ著者の嗜好がそっちなようだから、言ってもしかたない。
 「幻のクロノメーター」も、史実にIFをからめた面白い話だが、IFなしの科学史として読んでみたかったという気もしないではない。あるいはタイトルから連想するような、時間物として。

 川端裕人『夏のロケット』良。
 過激派のミサイル暴発事件の写真をみた新聞記者の高野は、散乱した部品のなかに見覚えのあるものを見つけた。それはかつて高校の天文部でロケット班として日夜ロケット製作に取り組んでいたころに見た覚えのあるものだった。もしや事件には、あのころのメンバーがからんでいるのだろうか?
 プロローグで火星着陸シーンが描かれたあと、読者は現実に引き戻される。
 そりゃあ、粗筋書き読んでも、そこまで行くはずないわなあ、と、がっかりしながらもぐいぐい引き込まれていくうちに、話は意外なまでに進んでいく。
 あそこまで行くことは期待してなかったが、そこまで行ってくれるとは。満足だ。

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