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2013年7月 2日 (火)

小野不由美『丕緒の鳥』

 小野不由美『丕緒の鳥』読了。
 新王即位の礼で使用される陶製の鳥を作る命を受けた丕緒(ひしょ)の想い・・・「丕緒の鳥」。
 たった十二銭のために通りすがりの子供を殺した男の罪に見合う刑罰は・・・「落照の獄」。
 王不在で荒れる国土。ブナ林の異様な枯死が国中に広がるなか、その対処法に気づいた官たちは・・・「青条の蘭」。
 王の理不尽な布令を実力行使する空行師に、肉親の命を奪われた蓮花。王死せしのち居場所として紹介されたのは、世事に疎い学者たちのいる村だった・・・「風信」。
 講談社文庫にかわり新潮文庫で順次再刊されている十二国記シリーズの最新巻。
 地味である。一度御簾越しに陽子の声が聞こえる以外は、庶民を描いた時代小説の一幕のような地味さである。
 こんなにセンス・オブ・ワンダーのないファンタジーがあっていいのだろうか、というくらい。
 普通なら、主立った登場人物たちにまた試練を与えたり冒険の旅に出させたりすればいいようなものだが、そうはしない。
 思い返せば作者は『風の万里 黎明の空』のあとがきで、物語に描かれない、行間で命を落としていく名もなき人々に思いを寄せていた。
 この短篇集『丕緒の鳥』は、そうした人々に捧げた一冊なのではなかろうか。
 以前に出ている短篇集『華胥の幽夢(かしょのゆめ)』では、泰麒と漣国王、芳国仮王と元公主、陽子と楽俊、利広と風漢といった、豪華なキャスティングにも、物語にもわくわくさせられたが、今回の本はそういったことには無縁だ。
 「青条の蘭」や「風信」では、この世界における植物や昆虫の生まれ方についてくわしく触れていた。
 そんなことも考えあわせると、作者は自分の作ったこの世界にそろそろオトシマエをつけようとしているのではないのだろうか。
 今後シリーズは『図南の翼』『黄昏の岸 暁の天』『華胥の幽夢』とつづき、そのあとに書き下ろし長編が予定されている。
 『黄昏の岸 暁の天』直後の話だろうか。それとも現実に合わせて15年くらい経ってるのだろうか。
 利広の言った、慶はかなりいい形で十年を越える、という予想は当たっているだろうか。
 妖魔の側に何か起こっているのでは、という明嬉の推測は。
 自分の創った世界に真面目に向き合おうとすると、今回の短篇集のようにある意味「瑣末」なことにこだわって先に進めないかもしれない。
 この短篇集を最後にして作者は一気に事を進めてしまうかもしれない、などと思う。これを最後にあの公主のことは忘れる、と言った月渓のように。

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